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  Hidaka Ritsuko
日高 理都子 (ひだか りつこ)
 
     
     
 

【プロフィール】

アーティスト。1962年、大阪生まれ。1992年、イギリスのミドルセックス大学美術科を卒業後、1996年、チェルシーカレッジ大学院修士課程を修了。日常生活上で使用される言語や情報群を素材にした作品を中心に、ビデオ、サウンド、インスタレーションなどをギャラリー、短編映画祭などで発表。1997年から2001年、イギリス国内のアートスクールで招待講師として実験ビデオ制作ワークショップを担当。1999年ロンドン芸術協会より奨励金、2000年ブリティッシュ・カウンシルより援助金、2006年インデックス・ファウンデーション(スウェーデン)より制作補助金を受け、多方面で活動中。

インタラクティブ・ウェブ作品 「大阪喫茶店世界分布図」
http://website.lineone.net/~ritsuko.hidaka/

■イギリスでアートを学ぶ

高校卒業後、しばらく製薬会社で働いていたのですが、1980年代半ばにイギリスに渡りました。働いてお金も貯まったし、イギリスのロックが好きだったんですね。自分で演奏とかしてたわけじゃなくって、単なるファンでしたけどね。その頃は、留学というとだいたいアメリカに行く人が多くて、ヨーロッパに行く人は少なかったですね。私は他の人がやっていないことが好きだったから(笑)。

最初は6ヶ月の短期語学留学の予定でしたが、はまってしまいまして(笑)。その後、ビザの関係もあって、英語の上達と趣味を兼ねて、美術大学の予備課程に入学しました。中学の時に画家になりたかったので、単純です。大阪にいるときは、もっと現実的に食べていける職業を考えていたのですが、まあ、オシャレじゃないですか、ロンドンでアートを学ぶって(笑)。

1ポンド350円時代でしたけど、留学にはあまりお金がかかりませんでした。予備課程は学費年間14万円くらいだったし、大学では奨学金を受けることもできました。その頃のイギリスは大学生にとっては天国でしたよね。今では学費がとても高くなってしまいましたけどね。

大学は専門を決めずに行けるオープン・フィールドという制度だったので、絵画も描いていたのですが、ビデオ機材と編集室があったので、映像を作り始めました。ビデオを使ったら、絵を描くよりも早くできるんで(笑)。1年の時は版画の先生についていましたが、2年からはビデオの先生に指導を受けました。その頃の作品はイメージにインパクトのある、という感じのものがほとんどでしたが、社会性のある作品、たとえば、ベジタリアンの流行を風刺するようなものなども作りました。

大学の時はヨーロッパ中を旅して各地で展覧会を見たりしましたが、そのなかで、ビル・ビオーラとか、ビデオ・インスタレーション(注1)から影響を受けて、仏教的な瞑想をテーマにした作品なんかも作りました。よく日本のことを尋ねられたりするのですが、何も知らないので、あわてて調べたりして、日本にいたら絶対に見ないような素材、たとえば、比叡山の修行僧の山歩きのビデオなんかを大学の図書館で見たり。修行僧が、行の最終段階で断食するシーンがあり、感覚が鋭敏になっているので、お香の音が大音響で聞こえる、というイメージをビデオ作品にしようと決めて、2年次の課題制作はお線香をアップで撮って、12分間それだけ、っていうものでした(笑)。すごい禅の世界でしょう(笑)。最後に、お線香が倒れるところまで見た人は得をするという。卒業制作は、モニターを並べて、「何も映っていない青」のイメージで青の画面を表示してあるもの。でも本当は「空の青」で、ときどき飛行機が横切る。そんな作品でした。

大学卒業後、結婚して1年ほど大阪に戻っていたのですが、相手がイギリス国籍だったこともあって、またロンドンに戻り、制作活動を続けて、今度は大学院の修士課程に入りました。そのときも領域の限定はなかったのですが、指導の先生はパフォーマンスやインスタレーションの先生でした。その頃のロンドンのアート・シーンの流行もあって、コンセプチュアル・アートとか、インスタレーションを続けました。大学院では、作品について言語化して説明することが特に重要視されていて、いろんな哲学書を読んだりして、理論武装しなければ、という風潮が強かったですね。
 *参考:Side Specific Installation (1996)、Portrait (1996)
 *卒業制作:Direction Finder (1996)

私自身がビデオ制作の主題に考えていることのひとつは、直接的な経験とモニターを介した経験の差異についてです。その2つの経験では、人が見ている領域、聞こえている領域がとても違う、ということに関心があります。認知科学や現象学などに関心が近いと思います。作品を作るときには、まずそういう理論が先にあって、緻密に組み立ててから制作を始めるという感じですね。卒業制作(Direction Finder)もそうですが、社会空間が言語的・概念的に区分けされている、そういう側面を表現したものが特に好きですね。

■「3つの質問」について


「3つの質問」も、そういう理論が先に立った作品です。いろんな作品を作ってきましたが、最近は日常生活からあまり離れていない作品を作りたいなと思っています。

この作品は、テレビ・ニュースなどでよく見られる街頭インタビューの形式で、そうすると見る側がすんなり入ることができるんですね。質問の内容は、見ている人が「私(=制作者)」を想像するような質問にしてあるわけです。私の映像制作におけるもうひとつの別なポイントは「見えないところ」で、カメラに切り取られた「外側」に興味があります。カメラのこちら側とか、編集と編集の間に何が起こっているのか、とか。

まず最初の2つの質問では、見ている人はビデオに映っていないもの(=制作者の顔)を想像しながら見るような仕掛けになっている。また、街頭インタビュー形式の面白いところは、見ている人は「自分がその質問をされたら、なんて答えるやろな」って思いながら見てしまう、という点です。「私やったらこんな答えをする」「この人の意見はちょっと違う」とか、そういう風に巻き込まれながら見ているんですね。それも画面の外側にあることですね。画面の内側にあるのは触発剤で、それを見ている人はそれを基にいろんなことを考える、そういう形式がとても好きなんです。

で、3つめの質問は「見えている人」のことなんで、ちょっとオチというか、ホッとさせる、そういう構造になっています。それから、「見ている人」と「インタビューされている人」と「制作者」の3者をつなげる接点、ということですね。

「3つの質問」に登場するのは、実際にインタビューに答えてくれた人たち、全員です。もっとたくさん撮影して、そこから選んだというわけではありません。出てくる順番も割とそのままで、入れ替えたりとかはあまりしていません。撮影地は実はロンドンだけではなくて、ロンドンとハル(イングランド北部の小都市)の2カ所なんです。これを撮影した頃は、もう大学院を卒業して、ハルで非常勤講師をしていました。ロンドンでも自宅近くと、スタジオ付近と2カ所で撮影して、その後、ハルに移動して、そこでも撮影しました。ロンドンは都会だから、私みたいな東洋人も珍しくないけど、ハルでは、あんまり外国人がいない。だから、インタビューされる人の反応も違うだろうと考えて、いろんな撮影地で撮りたいと思っていたんですね。いろんなリアクションが撮りたかった。

いろんな人が「私」のことをどう見ているのか、それをひっくり返してみると「自画像」なんですね。「自画像」をビデオで撮って、「自画像」なんだけど「自分」を撮さずに、他のもので表現している、という。

私自身の活動はギャラリーを中心にしていますので、「てれれ」は「入り口」のひとつのようなものかな。「3つの質問」は、けっこう長い間、多くの場所でたくさんの人に見ていただいている作品ですね。

注1:インスタレーション(installation、装置・設備・設定などの意)
モダンアートやとくにコンテンポラリーアートに頻繁に現れるようになった美術作品の提示方法の一つ。物体や装置などを配置し、アーティストの意向に添って構成された空間そのものを作品とするため、そこに配置されているモノ自体はとるにたらないものであることも多く、作品は「鑑賞」するものというより「体感」するものに変質している(「はてな」より引用)。

 2006年7月19日 京都にて 聞き手&構成 石田佐恵子

 

 
     
 
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