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  Kim Seong-Il
金 成日(きむ そんいる)
 
     
     
 

【プロフィール】
1951年島根県生まれ。喫茶店「どるめん」店主。在日2世。小学校時代に宝塚に移住。結婚後、尼崎に居を構え、1981年に「どるめん」を開業。自分が暮らしている場所で自分の立場から社会的な問題にコミットしていきたい、との思いから、拠点としての喫茶店経営を考え、人権問題や反戦を扱ったイベント、アートイベント、ライブなど、さまざまな活動を行っている。「ドルメン」はケルト語で「支石墓」の意。朝鮮半島にも多くの支石墓があるということや言葉の響きから命名。「どるめん」は「てれれ」の上映スポットのひとつ。

■ビデオ作品『在日ー反乱する肖像』(1997)制作のいきさつ

 1995年11月に、法務省は、本人に限り外国人登録原票を開示するという方針を決め12月より実施しました。それ以前には、外国人登録原票は本人さえ閲覧することができなかったのです。そこで、家族・友人などに呼びかけて登録原票を集め、外国人登録法の問題をアピールしようと考えました。同じ1995年12月上旬の人権週間から、登録原票を募集しながら展示していくという方法で展覧会を企画して、実行しました。


 呼びかけに応じて、結局31名分の登録原票が集まりました。登録原票には14歳から3年(のちに5年)ごとに顔写真と指紋が登録されています。私は、登録原票というのは非常に特殊な形態の歴史資料だと思っているんですね。もちろん、それらは個人情報でもあり公開すべきものではありませんから、顔写真の部分のみ展示するということにしました。展覧会はまず「どるめん」で始めて、神戸の学生センターやリバティおおさか(大阪人権博物館)など、場所を変えて長期間続けました。


 そのときに、いくつかの新聞社やメディアの取材はありましたが、自分が思っていたほどの反響はなかったですね。一般の人々には、あの登録原票が持っている意味あいがあまり理解されていないのかな、という感じもありましたね。


 1997年にリバティおおさかで展覧会を行ったときに、25分のビデオ作品を制作しました。その作品は会場で常時流して展示しました。ビデオにしたのは、原票の写真やそれをモチーフにして募集した作品を、全部ではないですがある程度まとめて見てもらえる作品でもあるということです。また、写真などの作品展覧会は、展示する手間や場所、管理などを考えるとたいへんですが、ビデオならばそれだけで済みますから。


 展覧会以前に、ビデオ制作の経験があったわけではありませんが、子どもの卒業式の撮影など、ホームビデオ用のカメラは持っていました。登録原票写真の並べ方、仮面など「顔」をイメージするその他のマテリアルについては、募集作品以外にも店内にあるものなども使って、感覚的に撮影していきました。それに自分の好きな音楽を付けて編集しました。


 登録原票の顔写真というのは、文字通りその人の「顔」を表現していますよね。たとえば、うちの母の場合、一番最初の登録原票の写真だけがチマチョゴリを着た写真なんです。それらの顔写真は、その時代を生きてきた人間の「顔」であると同時に、時代そのものを映し出しているんでしょうね。ビデオ作品にすると、その変遷が分かることの面白さがありますし、個人的な関係性のある人たちの顔写真が並んでいると、それ自体にもいろんな感慨があります。肖像写真や学校の集合写真には、さまざまな共通体験やそれにかかわる個人的な感想を引き出す何かがあるということですね。見る人には、単にアート作品というとらえ方ではなく、一連の顔写真が並んでいる映像から、外国人登録法の持つ暴力的な意味、管理の側面まで感じ取ってもらえれば、という思いはあります。「反乱する肖像」というサブタイトルには、登録原票を提供してくれたそれぞれの人たちのプロテストへの共感が込められているんですね。


 展覧会終了後は、資料やいきさつ、オリジナルビデオ版、関連するニュースなどを自分のHPで公開しています。

「在日ー反乱する肖像」のHP
http://www.geocities.jp/hanran9/

■作品『在日ー反乱する肖像』(2003/2)について

 1997年の作品をリメイクしたかたちで、2003年の「てれれ」上映作品をつくりました。下之坊さんたちが「てれれ」を始めようとして場所を探していたときに、まず上映会場として「どるめん」にオファーがあったのです。「てれれ」版の作品は、「自分もこんな作品を持ってるよ」ということを伝えたら、「じゃあ、ぜひやろう」ということになって、再編集してもらったものです。編集協力は、元NHKの小山帥人さん。冒頭の説明文は自分で書いたものを字幕にして入れてもらいました。そういうわけで、実は、オリジナル版の『在日ー反乱する肖像』が、私が作ったと言える唯一のビデオ作品です(笑)。


 「てれれ」は短い作品でないといけないということだし、オリジナル版で使っていた音楽の問題もあったので、朝鮮の古典音楽をBGMにした部分を残して、重要な映像のエッセンスを切り取ったものになっています。登録原票写真のモノクロ感、仮面の強烈な色彩、激しく強い印象を残す民族音楽の相乗効果はとても気に入っています。


 今後の映像作品制作については、多少やってみたいという気分はもちろんあるんだけども、1997年の作品は、展覧会を盛り上げるためにいろんなことをやった、その活動の一部だったので、自分でもものすごいエネルギーを傾けて作ったものなんですよ。だから、そのエネルギーがね、そのときは出たけども(笑)、なかなか普段の生活ではそこまでして作ろうとすることがないんですよね。


 「てれれ」版の作品は、「てれれセレクト2003」にも収録されましたし、国立民族学博物館の特別展示「多みんぞくニホン −在日外国人のくらし−(2004年3月〜6月)」でも上映されましたので、それなりに多くの人に見てもらえたのではないかと思います。

 2006年1月18日 「どるめん」にて 聞き手&構成 石田佐恵子


 
     
 
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