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月度報告書(2013年4月度)前田充洋

前田充洋

4月は夏期ゼメスターの開始の月であり、開始講演で幕を開けた(下記コロキウム1)。講演のあとは歴史学科全体で懇親会があり、各々が夏期ゼメスターに向けて英気を養う場となった。この場で夏期ゼメスターからビーレフェルト大学歴史学科に籍をおくことになる学生が紹介された。ドイツ国内はもちろん、アメリカや中国からの留学生も見られた。

エップル教授のゼミナールも開始した。今期ゼメスターから参加する学生も数人いたため、ゼミの初回は簡単な自己紹介と各自がいつ報告するかを決定するだけで終えられた。私は7月初頭に報告することになった。エップル教授のゼミは、単に報告会に終始するのではなくその日の報告内容を軸に、エップル教授が呈示する質問にたいして二人一組で簡単にプレゼンをする時間(5分程度)を与えられる。

二回目のゼミで呈示された質問は、「自分がもし今講演をおこなうことになり、準備しているとします。準備するにあたって講演のあとに質問されると返答に困るものを挙げてみてください。」というものであった。私は、「企業の活動や製品の流通から、国家間の関係を見ようとしている。しかし現在は企業家の海外諸国に対する視角にまで踏み込めていないので、ドイツの企業家が対外事業をおこなううえでそれらの国をどのようにみているのかということまで問われると、現時点では回答に詰まる」と述べた。「この質問の答えは、現時点で自身の研究に不足している観点であるから、それに留意してすすめるとよい」とのことであった。確かに自身の研究について、企業の活動に着目していても企業家の視角をあまり意識していなかった。自身の研究をすすめるにあたって、欠けている点を意識させられる機会になった。

コロキウムに関しては4月においては以下のものに参加した。

1.Doris Gerber, Möglichkeiten als konstitutives Merkmal von Geschichten und die Intentionalität historischen Handelns. (4月10日、ゼメスター開始講演を兼ねる。)
2.Anne Friedrichs, Die polnisch-deutsche Migration ins Ruhrgebiet, 1870-1950: Umrisse einer Gesellschafts- und Verflechtungsgeschichte. (4月12日)
3.Bettina Brockmeyer, Koloniale Lebensläufe: Studien zum deutschen Kolonia-lismus in Afrika. (4月17日)
4.Anne Sudrow, Geschichte der alternativen Ökonomie in Westeuropa nach 1945 - Umrisse eines Forschungsfeldes. (4月26日)


ゼメスター開始講演。公演をおこなうテュービンゲン大学のドリス・ゲルベル氏(右)と司会のアンゲリカ・エップル教授(左)

4月の半ばから終わりにかけての二週間、エッセンにあるクルップ歴史文書館Historisches Archiv Kruppにおいて史料調査をおこなった。ビーレフェルトからエッセンまで列車で2時間ほどである。なんとか通うことのできる時間の範囲内であろう。3月度の報告で文書館からメール返信が無いと述べたが、4月初頭に返信があった。私が訪問依頼メール送った文書館員の方が3月末までイースター休暇をとっていたためであった。改めて「定期的に訪問したい」という旨を伝えたのだが「文書館の内的事情のために定期的に訪問することは許可できない。各月二週間ほどが限度であり、訪問する日を指定してほしい」とのことであった。そのためエップル教授のゼミやコロキウムの日を避け、4月における文書館訪問の日程を伝えた。


クルップ歴史文書館の外観。先月度の報告書内で紹介したVilla Hügelに併設されている。
建物の一階と二階はクルップ社の歴史展示館になっており、三階が文書館になっている。
内部の写真撮影は許可が下りなかった。

クルップ歴史文書館においては自身の研究テーマである、クルップ社の日本にむけた事業にかんする史料を収集した。事前に「日本への事業について調べたい」と伝えておいたので、目録をもとに幾つか史料を用意していただけた。閲覧した史料は、クルップ社が第二帝政期において日本の大使と交わした工場訪問や製品供給についての書簡や、クルップ社から日本への業務を委託している企業に向けて送られた書簡などである。この二週間で一程度の史料を収集することはできたが、収集しきれなかったものもあった。引き続き史料調査をすすめていきたい。
2013/05/20 14:20