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月度報告書(2013年5月度)木村容子

木村容子


今月は、北イタリアの都市パドヴァにある、パドヴァ大学図書館Biblioteca universitaria di Padova(写真1)で、15世紀の説教関連の未刊行史料の調査をおこなった。パドヴァ大学の創設は1222年と古く、ヨーロッパ最古のボローニャ大学(起源は1088年)から学生と教授の集団がパドヴァへ移動してきたことに始まる。今回筆者は、パドヴァ大学図書館の写本閲覧室を訪れ、説教の記録や、神学者・説教師によって書かれた告解に関する著作などを閲覧した。


写真1 パドヴァ大学図書館

この写本閲覧室では、利用者は史料をリクエストすると、史料ごとに閲覧者リストを手渡される。このリストには、閲覧年月日、氏名・所属、閲覧目的といった必要事項を手書きで記入する。これまで筆者が利用した文書館では、閲覧申込用紙のみに記入する場合が多く、自分が閲覧する写本を過去にどういった研究者が参照したのかを知ることは困難であった。しかし、今回のように閲覧者リストを見ることができれば、自分が参照する史料について、これまでの閲覧者の数と名前がわかるのである。筆者も閲覧者リストのなかに、何十年も前の著名な研究者のサインや最近書かれた知人の研究者のサインを見つけて驚いたり、また史料によってはほとんど記入がなく、これまで参照されてこなかったことに気付くなど、興味深く閲覧者リストを眺めてから、史料を閲覧した。

次に筆者がパドヴァで未刊行の説教史料の調査をおこなったのは、アントニアーナ図書館Pontificia Biblioteca Antoniana(写真2)である。このアントニアーナ図書館は、毎年世界中から多くの巡礼が訪れる聖アントニオ聖堂(写真3)の内部にある。また今回、同じく聖アントニオ聖堂内にあるアントニアーニ研究所Centro Studi Antonianiから、筆者の今後の研究の参考にと、研究所が最近出版した中世後期のフランチェスコ会の歴史に関する研究書をご厚意でいただいた。


写真2 アントニアーナ図書館


写真3 聖アントニオ聖堂

さて、今回のパドヴァ滞在時には、16世イタリアで活躍した人文主義者ピエトロ・ベンボ(1470-1547)に関する展覧会が開催中であった(『ピエトロ・ベンボとルネサンスの発明展Pietro Bembo e l’invenzione del Rinascimento』、2013年2月2日~5月19日)。筆者も訪れたところ、大変盛況であった。

会場となったのは、市の中心部に位置する、パラッツォ・デル・モンテ・ディ・ピエタPalazzo del Monte di Pietà(写真4)であり、中世末期の都市と説教の密接な関係を今に伝える建物である。15世紀末にフランチェスコ会厳修派説教師の奨励によって、他のイタリア都市でもみられたように、パドヴァでもユダヤ人金融に代わる手段としてモンテ・ディ・ピエタ(公益質屋)が誕生し、その組織が置かれたのがこの場所なのである(モンテ・ディ・ピエタについては、大黒俊二『嘘と貪欲-西欧中世の商業・商人観』名古屋大学出版会、2006年を参照)。現在でも16世紀に描かれた、説教師ベルナルディーノ・ダ・フェルトレBernardino da Feltreがモンテ・ディ・ピエタの活動を奨励する姿を目にすることができる(写真5)。


写真4 ピエトロ・ベンボの展覧会会場

写真5 モンテ・ディ・ピエタを奨励するベルナルディーノ・ダ・フェルトレ

今月は、上記のパドヴァの図書館に加え、ボローニャにある国立文書館Archivio di Stato di Bolognaでも、15世紀のボローニャにおけるフランチェスコ会の活動に関して史料調査を実施した。さらに、引き続き中世説教に関する先行研究や刊行史料を複写すべく、ボローニャ大学の大学図書館、イタリア学科図書館、歴史学科図書館に赴いた。指導教官であるマリア・ジュゼッピーナ・ムッザレッリ教授との面談では、筆者の研究のみならず、教授が現在関わっている研究プロジェクトについても興味深いお話を伺うことができた。なお16日には、女性と食の歴史を扱ったムッザレッリ教授の新著『女たちの手の中で-食べ物を与える、癒す、毒を盛る』(Maria Giusepina Muzzarelli, Nelle mani delle donne-Nutrire, guarire, avvelenare dal Medioevo a oggi, Roma-Bari, Laterza, 2013)の市民向けプレゼンテーションに参加した(写真6)。


写真6 ムッザレッリ教授による新著の市民向けプレゼンテーション
2013/06/18 14:24