前田充洋
5月においては、アンゲリカ・エップル教授から研究上のアドバイスをうけつつ、ビーレフェルト大学において研究活動をおこなった。主な活動内容は、先月エッセンのクルップ歴史文書館Historisches Archiv Kruppにおいておこなった調査で収集した史料の分析と、大学図書館をつうじての文献収集である。
先月に調査し収集した史料の多くはクルップ社の取締役会員による手書き文書のため、文書館内ではさしあたって転写することに集中し、そのデータを持ち帰って分析するという手法をとった。収集した史料は、1.日本への製品供給をめぐる、クルップ社とその代理企業Vertreterとの間で取り交わされた書簡やテレグラフ、2.そして日本政府の人間が、エッセンの鋳鋼工場に訪問するさいに日本とクルップ社との間で取り交わされた手紙、などである。それらの史料を分析するにあたっては自身の研究テーマに鑑み、1.の史料群を優先した。『1903-1906年における日本への鉄鋼供給Stahllieferung für Japan, 1903-1906』、『1896-1902年、1906年における日本との取引関係Geschäftsbeziehungen zu Japan, 1896-1902 und 1906』、『日本との関係Beziehung zu Japan, 1906-1934』などがそれにあたる。
これらの史料の内容はクルップ社とその傘下の鉄鋼工場、たとえば在アンネンの鉄鋼工場Krupp’sche Stahlwerk zu Annenやクルップ社と他の企業、たとえばハンブルクに拠点を置くイリス商会Illies & Co., Hamburgとのやりとりが主である。とくに『1903-1906年における日本への鉄鋼供給』には、日本に供給する硬化鉄鋼、銃身用の鉄鋼やサーベルの刃用の鉄鋼などの鉄鋼製品にかんするクルップ社、アンネンの鉄鋼工場そしてイリス商会の間で取り交わされたテレグラフや電話の内容、さらには製品の品質にかんする規定とその価格(一部であるが)が記されている。この史料は、国内外における先行研究のなかでいまだ用いられていない。ドイツ国内における企業間関係を、日本への製品供給を軸にしてみる際に非常に有益かつ新たな視角を提供するものであると感じた。
しかし有益な視点が得られると思われる史料が獲得できた一方で、私が着目したい点である製品の価格をめぐっての日本政府あるいは日本の企業とのやりとりが明記された書簡や文書が見受けられない。年度決算報告書Bilanzをみると、年度ごとの製品の販売総数や売上総額、利益額などをみることはできる。しかしそれだけではクルップ社と日本の関係の構築過程やその変遷をみるには限界があろう。次月度に再度史料調査をおこない、7月上旬の報告にそなえるべきであろうか。
またコロキウムにかんしては、5月においては以下のものに参加した。
- Christiane Reinecke, Laboratorien modernen Lebens?: Großsiedlungen als soziale Experimente und urbane Problemzonen in Westdeutschland und Frankreich. (2013年05月10日)
- Dirk Bönker, Die Republik in Gefahr?: Nation und Militarismuskritik in den USA im 20. Jahrhundert. (2013年05月17日)
- Sabine Rutar, Arbeit und Überleben in Jugoslawien: Regionale Bergbaugesellschaften unter NS-Besatzung, 1941-1944/45. (2013年05月31日)