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月度報告書(2013年6月度)前田充洋

前田充洋


6月においても先月に引き続き、ビーレフェルト大学を拠点に研究活動をおこなった。7月初頭にあるアンゲリカ・エップル教授でのゼミForschungswerkstattでの報告準備をしなくてはならないのである。ゼミの慣行上、報告をおこなう前の週の水曜日には参加する学生とエップル教授にテキストをメールで送付することになっている。ゼミは月曜日におこなわれる。それまでに参加者は送付されたテキストを各自で読みコメントを用意していく。送付するためのそのテキストを作成しなくてはならない。今月度の初頭にエップル教授と簡単な相談をして以降、早めにテキストの作成にとりかかった。

先月度の報告書で述べた史料の収集状況をエップル教授に述べると、ぜひ今月も調査に行くよう指摘をいただいた。早速クルップ歴史文書館の職員であるHeinfried Voss氏と連絡をとり4月以来、再度史料調査をおこないたい旨を伝えた。しかし二週間近く経っても返信がない。19日になってようやく返事をいただいたのだが、「明日明後日(20-21日)、もしくは7月8日以降に来てください」とのことであった。後者の日程では、報告に間に合わないため「明日明後日うかがいます」と伝えた。

翌朝ビーレフェルトからエッセンに向かった。ビーレフェルト中央駅構内にあるパン屋で朝食を購入し列車に乗り込む。エッセンに向かう時にはいつも列車内で朝食をとる。早朝の列車内では同じようにパンをかじりながら新聞を読んだり本を読んだりしている人をよく見かける。エッセン中央駅に着くと列車を乗り換え、Essen-Hügel駅で降りる。

駅を出てルール湖を右手に進むと、すぐに入口が見える。Hügel Parkというクルップ家がかつて邸宅として利用していたVilla Hügel(建物自体は1873年に完成)をもとにつくられた公園の中に文書館はある。入口で警備員に文書館に行きたい旨を伝える。観光客としていくと一人当たり5ユーロかかるのだが、文書館に行く場合はタダで通してもらえる。入口を過ぎるとすぐに見える大きな建物がある。Villa Hügelである。駅から近い公園の入り口は公園の裏手にあたる。しかしVilla HügelからEssen-Hügel駅の乗り場に直通する道が公園内にあり、邸宅として使われていたかつてはこちらが表側であったのであろうかとも思える。


Essen-Hügel駅からのHügel Parkの入口。
公園内はハイキングに来る人や学校の社会見学などでも賑わっている。

Villa Hügelを横目に文書館に到着すると、外観に工事のための足場が組まれている。Voss氏が訪問の日程を細かく指定してこられたのには工事中は立入りをなるべく控えてほしいという旨があったのだろうか。入口で警備員にお願いし、エレベーターを起動してもらう。以前の月度報告でも述べたが、クルップ社の文書館はクルップ歴史展示館Historische Ausstellung Kruppの最上階にある。その最上階の文書館に行くにはエレベーターを利用するしかなく、その展示館の警備員がもつ鍵がないと起動できない。クルップの文書館は完全予約制なのである。

閲覧室に着くとVoss氏に挨拶をすませ、調査に着手した。所蔵されている史料はコンピュータ上の目録で基本的には整理されている。しかしまだ入力されていないものも数多くあるらしく、今回は紙の目録カードも見せていただいた。その中からもいくつか史料を見せていただいた。またVoss氏からベルリンにある連邦文書館Bundesarchiv Berlin-Lichterfeldeにもクルップ社にかんする史料が所蔵されていることを教えていただいた。私の研究にかんするものとして「日本政府へのクルップ社の供給Lieferungen der Fa. Krupp an die japanische Regierung」などがあるという。史料の名称から推測するに統計的なデータが記載された史料と思うのだが、こうした史料には備考欄や数値的な記録の片隅に重要なメモ書きがなされていることも多い。Voss氏にお礼を言い、2日間の短い調査を終えた。

収集した史料の分析や、報告の準備は大学から割り当てられているデスクで主におこなっている。デスクはビーレフェルト大学の客員研究員や、博士課程に在籍しているものには等しく割り当てられる。本棚とともに一つの研究室に2-3人分配置され、各々にPCが備え付けられている。ただこのPCのスペックがまちまちで、共有のプリンタに最初から接続されているもの、個別のプリンタも支給されるもの、インストールされているソフトが少ないもの、キーボードだけ古いものなどさまざまである。私に支給していただいたPCは幸運にも共有のプリンタに接続されたPCである。大学内での印刷やテキスト作成での文章校正には不便せずにすんでいる。


支給されているデスク。部屋は窓が大きく日中では電灯をつけなくとも十分明るい。

また、コロキウムにおいては以下のものに参加した。

  • Jens Ivo Engels, Korruption und Moderne. (6月14日)
  • Hans Joas und Samuel Moyn, Human Rights and the False Choice between Realism and Utopianism.(6月27日)
  • Benno Nietzel, Verwissenschaftlichung des Medialen?: Staatliche Kommunikationspolitik und wissenschaftliche Expertise. USA, Deutschland, Sowjetunion 1918-1960.(6月28日)
個人的に興味をひいたのは28日のNietzel氏の報告であった。内容としてはヴァイマル期から第二次世界大戦後の時代におけるフランクフルトに拠点をおくユダヤ人企業家の商業活動とその重要性そして社会経済への影響である。そのなかでもとくに第二次世界大戦後にユダヤ人企業家がナチス政権下において根絶された彼らの商業活動をどのように再び確保し、国から償還させたのかのプロセスがどのようなものであったかという点に関心をもった。企業の国に対する働きかけという点で私の研究テーマと関連するところがあり、興味深く聞かせていただいた。


6月28日のコロキウムの様子。報告者のBenno Nietzel氏と司会のWillibald Steinmetz教授。

なお、下記のコロキウムも開催される予定であったが報告者の都合から中止との連絡があった。

  • Christoph Classen, Politik als Fiktion: Ordnungsvorstellungen und politische Images in Film und Fernsehen.
  • Kathrin Kollmeier, Staatenlos: Eine transnationale Geschichte bestrittener Zugehörigkeit im 20. Jahrhundert.
2013/07/19 14:45