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月度報告書(2013年8月度)中條健志

中條健志


7月29日にパリに到着し、本プログラムにおける研究活動を開始した。筆者の活動目的は、「フランスにおける、移民の歴史化にかんする研究――国立移民歴史館を中心とした、関係諸機関における『移民の歴史』に関する談話資料の収集活動と学術交流――」である。8月はヴァカンス期間のため、訪問先機関の一部が一定期間休みであったり、通常よりも研究会・学会の開催が少ない時期であったりはしたが、おもな派遣先である国立移民歴史館(付属メディア・ライブラリー)および関係諸機関(市民団体)における資料収集を中心に活動をおこなった。

また、収集した資料をもとに、国際学会における口頭発表の準備もすすめている。とりわけ、移民歴史館(写真1参照)が市民団体、研究者、政治家らによって構想され、開館するまでの過程に注目し、いくつかの時期に刊行された報告書を談話資料として、フランスの歴史における「移民」がそこでどのように語られ、歴史館という国立の機関としてどのような目的を付与されてきたのかについて分析している。こうした活動は、全滞在期間を通じてすすめられるものであるが、その最初の成果報告として、一時帰国後の10月19日に、韓国(ソウル市)で開催される日本フランス語教育学会・韓国フランス語フランス文学教育学会共催国際学会にて口頭発表をおこなう予定である。


写真1

参加した主な行事としては、以下のものが挙げられる。まず、8月4日に、国立移民歴史館において、全世界のさまざまな地域における移民現象を説明するパネル(展示品として通常も公開されてはいるが、解説などは付されていない)について、所属研究員によるレクチャーを受けた(写真2参照)。ここでは、18世紀末を起点とする「移民の流れ」が、とりわけ西ヨーロッパを中心とした現象としてどのように説明されているか、をあらためて確認することができた。


写真2

8月8日には、ヴェルサイユ市でおこなわれた、市民団体「Réseau Education Sans Frontières(国境なき教育ネットワーク)」イヴリーヌ県支部主催の、サン=パピエ(滞在許可証を持たない人びと)の教育支援を訴える集会に参加し、資料収集の一環として、主催者へのインタビューをおこなった(写真3参照)。


写真3

また、複数回にわたり、市民団体「Union Nationale des Sans Papiers(サン=パピエ全国連合)」を中心として開催された、サン=パピエの正規化(滞在許可証交付)を訴える集会およびデモに参加し、参加者からの聞き取り調査および資料収集をおこなった(写真4参照)。こうした場では、たとえば『La voix des sans-papiers』(サン=パピエの声)といった、各団体が発行するチラシ、パンフレット、雑誌の収集が重要な活動となる。というのも、このような冊子は当該の問題にかんする最新の動向を紹介しているだけでなく、活動家や研究者、政治家らによる記事が掲載されているにもかかわらず、公に出版されていない場合が多く、現地に赴く以外の入手手段が限られているからである。

8月28日には、市民団体「SOS Racisme(SOS レイシズム)」主催の講演会に参加し、フランスにおける移民政策をめぐってしばしば展開される、アメリカ型アファーマティブ・アクション導入の是非についての、活動家および研究者による議論・討論を聞く機会を得た(写真5)。

この他には、受け入れ先機関(フランス国立社会科学高等研究院)の担当教員である、セルジュ・ポーガム教授の著書、『Les formes élémentaires de la pauvreté(貧困の基本形態、2005年)』の日本語訳を、文学研究科の川野英二准教授とともにすすめた。 


写真4

写真5
2013/10/02 15:00