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月度報告書(2013年8月度)前田充洋

前田充洋


先月度の報告書で述べたように8月度初頭の十日間、ベルリンの連邦文書館Bundesarchivにおいて史料調査に従事した。宿泊先から文書館への道のりは、Sバーンに乗りリヒターフェルデ・ヴェストLichterfelde West駅で降車、そこから徒歩25分ほどである。北村教授にベルリンの文書館で史料調査する旨をメールで伝えたさいにリヒターフェルデのことを教えていただくことができた。

この地区はドイツ第二帝政期初期に郊外邸宅のための地区として開発された地域である。しかしこの時期には市民用の邸宅をバランスよく設計する様式がまだ確立しておらず、住宅に必要なものを狭い住居や土地に強引に詰め込んだ設計のもとで建てられた住宅が存在するという。事前にそうした情報をえることができたので道すがら建物や住宅地の状況を注視して文書館にむかった。文書館までの道のりでは特徴的な建物は見受けられなかったが、区画整理が少々いびつであるに加えて住居間の幅が非常にせまく感じられた。初日の文書館訪問はフィールドワークもかねることができた。


リヒターフェルデ・ヴェスト駅



駅から文書館への道のり

文書館に着くと警備員に利用証を見せ、ロッカーの鍵とその日の訪問者証を受け取る。文書館内ではこれを付けて行動しなくてはならない。史料の閲覧については先月の31日に手続きを済ませておいたので、すぐに史料をみることができた。受付に利用証を預けて閲覧室の机にパソコンとメモ用のノートを置き、閲覧室の一番奥にある史料受け渡しのカウンターで史料を受け取る。閲覧予約をしたさいに発行される紙を見せるか、自分の名前を告げると予約状況を調べて予約した史料を保存場所から出してきてもらえる。 

名前を告げて史料を受け取ると全部で四冊からなる手書きの外交文書(R901/8467-8470)であった。文書館訪問前は数値の統計的な史料と予測していたがそうではなかった。そのためベルリン滞在中は翻刻することに集中し分析は持ち帰ってからおこなうことにした。手書き文書を翻刻するさいには書き手の癖をどれだけ早くつかむかがカギとなる。公文書のため比較的ていねいな字で書かれているが、書き手が変われば同じ文字や単語でも形状がかなり変化する。わからない単語が出てくると、前後から推察するかあるいは電子辞書のスペルチェック機能をもちいて該当するものを探す。そういった手段をもちいて地道に読み込んでいくしかない。

十日間その作業をつづけ二冊分翻刻を終えることができたが半分残ってしまったため文書館に複写依頼をした。連邦文書館は依頼すればデジタルコピーをとることが可能であり、jpg形式でCDに焼き付けて自宅に送ってもらえる。A4サイズ1枚につき43セントであり学生であればさらい割り引いてもらえる。複写委託会社であるSELKE社の所定の用紙に記入しベルリンを後にした。


文書館内部の閲覧室。写真奥が受付(入口)である。

 翻刻作業をおこなうさいに借りていた机

なおベルリン滞在中に北村教授から紹介していただいた、ポツダム大学に留学中である東京大学の院生と会食する機会をもつことができた。私は19-20世紀転換期、彼は17世紀と専門とする時期は異なるが、軍事にかんすることをテーマとしているという共通点があり、「広義の軍事史」研究についての話題で盛り上がることができた。

ビーレフェルトに帰還後8月末に市庁舎内にある外国人局におもむいた。住居登録と滞在ヴィザ申請をして以来二度目の訪問である。滞在を延期したことで仮滞在許可証Fiktionbecheinigung, Grenzübertrittを発行してもらうのが目的であった。この仮滞在許可証は本格的なヴィザ延長の申請ではなく、旅程の変更などで出国を数日だけ延ばさなくてはならないといった場合に発行してもらう書類である。私もフライト時間の都合上滞在期間を一日だけ延長したためにこの許可証を発行してもらう必要があった。外国人局は平日8時から12時までしか受付をしておらず早朝から並ばないと「今日はもう終了です」と言われることも少なくない。しかし木曜日だけは14時半から18時にも開いておりその時間に市庁舎に向かった。14時過ぎに外国人局の受付前に到着したがすでに多くの人が受付の再開を待っていた。受付が再開されると、皆並ぶということはせずに我先に受付に向かう。誰かが先に待っていたということはあまり関係ないようで、受付の係の人に先に話しかけたもの勝ちといった様子である。幸いにも五、六番目に順番を待つ番号カードを受け取ることができ、30分ほどの待ち時間で許可証発行依頼をし、発行してもらうことができた。これで遅くとも10月10日にドイツを発てばよいようになった。

そうした滞在延長のための作業と並行してイタリアに渡航する準備を8月末にすすめた。ボローニャ大学と大阪市立大学が共同で開催するセミナーThe Translocal Urban Networking in EU Cities in Past and Presentに参加するためである。イタリアで開催されるセミナーとそれにともなうエクスカーションの様子については次月度の報告書で述べたい。


早朝の市庁舎前の様子1。
奥の建物が現在の市庁舎、右手の建物が旧市庁舎である。
市庁舎前の広場ではパン屋、肉屋、服屋などの露店が昼まで立ち並び小さなマーケットができあがる。


早朝の市庁舎前の様子2。旧市庁舎を背にパン屋が並ぶ。
2013/10/02 15:00