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月度報告書(2013年9月度)中條健志

中條健志


先月に引き続き、国立移民歴史館、および移民の支援やレイシズム問題にとりくむアソシアシオン(市民団体)を訪問し、資料収集(ヒアリングを含む)をおこなった。受け入れ先機関(フランス国立社会科学高等研究院)の担当教員であるセルジュ・ポーガム教授とは随時連絡を取り合い、とりわけ著書の翻訳について意見交換をおこなった。

また、前月に収集した資料を整理・分析しながら、10月19日に韓国でおこなわれる国際学会での口頭発表の準備をすすめると同時に、それらの内容を論文として執筆しはじめた。原稿はフランス語で書かれるため、身近にいる研究者等を通じて、適宜内容にたいするアドヴァイスやネイティブチェックを受けた。

参加した主な行事としては、以下のものが挙げられる。まず、9月12日に、国立移民歴史館でおこなわれたシンポジウムに出席した(写真1参照)。フランスにおけるチリからの難民・亡命者の歴史をテーマにしたこの催しでは、研究者やアソシアシオンの関係者らが、「フランスへの移住」と「フランス社会への統合」を論点として研究発表をおこなった。チリからの移住者自体は筆者の専門ではないが、彼(女)らが「フランスの移民」として、とりわけ社会統合に成功した存在としてどのように歴史のなかに位置付けられているのかをみるうえで、本シンポジウムは非常に有意義なものとなった。開会の際には、国立移民歴史館の代表であるジャック・トゥーボン元議員によるスピーチがあり、同機関の意義とフランスにおける移民の位置づけについて説明がなされた。それは、収集資料の分析結果を裏付けるものであり、国立の施設として、移民歴史館が「移民の歴史」を学ぶ場というよりも、むしろ移民や彼(女)らの後裔たちの、フランス社会への「統合」(intégration)を学ぶ・理解する場という特徴をもっていることを確認することができた。


写真1

また、シンポジウムに引き続き、『Exil』(2013年)という短編オムニバス映画の上映会がおこなわれた(写真2参照)。これは、「移民」をテーマにした70本のショート・フィルムの中から、セーヌ=サン=ドニ県の職業高校(美術系・映画系)の生徒150人――彼(女)らの国籍をすべて合わせると46あるという――が9本をセレクトしたもので、製作もアメリカ、韓国、スペイン、ドイツ、フランスと多岐にわたる。上映後、一部の監督のトーク・セッションがあり、移民に出自をもつ子どもたちからみた「移民」について議論がおこなわれた。


写真2

9月13日-15日にかけては、パリ市郊外のラ・クルヌーヴ市でおこなわれた、日刊紙『リュマニテ』(L'Humanité)が主催する政治・文化にかんする祭典「ユマニテ祭」(Fête de L'Humanité)に参加した(写真3)。ここでは、家族構造に基づいて移民現象を分析した人類学者のエマニュエル・トッドや、とりわけ子どもへの教育の重要性を主張しながら反レイシズム運動を展開している元サッカー選手のリリアン・テュラムなど、研究者、著名人、政治家らによるさまざまな社会問題をテーマにした講演会が開催され(写真4、5参照)、筆者は、講演内容の録音や配布資料の収集をおこなった。また、複数のアソシアシオンが一堂に会する催しでもあるため、関係する諸団体のブースを訪問し、インタビューや資料収集をおこなった(写真6参照)。


写真3


写真4


写真5


写真6

9月23日-24日にかけては、工学研究科の科研事業「都心再生に向けた回遊型実証社会実験による都市計画マネジメント手法の構築」の海外調査に通訳として参加した。具体的には、工学研究科および都市研究プラザの先生方とともに、毎年夏にパリ市がセーヌ河岸とラ・ヴィレット地区でおこなう「パリ・プラージュ」(河岸や運河沿いに砂浜を設置し、ビーチとして一般市民に開放するイベント)開催地のフィールド・ワーク(写真7参照)と、パリ市役所における、同イベントの担当者へのヒアリング(写真8参照)に同行した。

9月26日に一旦帰国し、8~9月までの研究活動をまとめながら、学会発表および論文提出の準備をすすめている。そして、12月22日にふたたび渡仏する予定である。

写真7


写真8
2013/10/25 16:00