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月度報告書(2013年10月度)木村容子

木村容子


今月は、中世説教を研究されているレティツィア・ペッレグリーニ教授(マチェラータ大学)にお会いすべく、イタリア中部マルケ州の町マチェラータを訪れた。というのも、9月にサン・ミニアートで開催された中世史セミナーで筆者が口頭発表をおこなった際に、中世史研究者アッティリオ・バルトリ・ランジェリ氏から筆者の扱う史料について質問とコメントをいただき、さらにペッレグリーニ教授とコンタクトを取るように勧められたためである。マチェラータといえば「マチェラータ・オペラ・フェスティバル」で有名であるが、16世紀末から17世紀初頭の中国で宣教したイエズス会士マッテオ・リッチの出身地としても知られる(写真1)。ペッレグリーニ教授との面談では自身の研究に参考となるアドバイスを数多くいただくことができ、大変有意義であった。


写真1 マッテオ・リッチの銅像と、没後400年を記念する垂れ幕(マチェラータ大聖堂)

マチェラータを訪れた際に近郊の町トレンティーノに立ち寄り、聖ニコラ聖堂内にある14世紀のフレスコ画を見学した(写真2、写真3)。この作品はピエトロ・ダ・リミニによって1320年頃に制作され、上段にはイエスと聖母マリアの生涯が、下段には聖アウグスティヌス修道会隠修士ニコラ・ダ・トレンティーノ(1245-1305)の生涯が描かれている。また聖ニコラ聖堂付属の美術館では、絵画や聖遺物箱のほかに、15世紀から20世紀までの約400点ものex voto(病の治癒や災難からの救出など、宿願のかなったお礼に神や聖者に捧げる奉納物)が展示され、当時の人々の信仰と暮らしを知るための図像史料として興味深い(写真4)。16世紀のex votoに関しては、他都市でもよく目にする火事や難破からの救助を願う情景や寝室で病の治癒を祈る情景のみでなく、決闘での負傷や職人の作業中の事故、女性の悪魔祓いといった様々なヴァリエーションがあり、見ごたえがあった。


写真2 聖ニコラ聖堂内部の礼拝堂(トレンティーノ)


写真3 レジナルド修道士の説教を聞く聖ニコラ(聖ニコラ聖堂)


写真4 1493年のex voto。赤ん坊(揺り籠の中)の治癒を聖ニコラ(左上の雲の中)に祈る母親(聖ニコラ聖堂、美術館)。 

今回のマルケ州訪問のもう一つの目的は、モンテプランドーネにあるジャコモ・デッラ・マルカ文書館での史料調査であった(写真5)。ジャコモ・デッラ・マルカ(1393-1476)は15世紀イタリアを代表するフランチェスコ会説教師の一人であり、モンテプランドーネは彼の出身地である。文書館には、ジャコモ自筆の写本や書簡を含め、彼が当地の修道院に創設した図書館にあった蔵書の一部(説教集と、説教作成に必要な神学者の著作や聖書語句辞典など)が所蔵されている(写真6)。

モンテプランドーネは、丘の上にある人口12,000程度の小さな町であり、日本人研究者の来訪が珍しかったのか、自治体の広報からインタビューを受けることになった。町はずれにあるジャコモ・デッラ・マルカ礼拝堂に移動しておこなわれたインタビューでは、モンテプランドーネへの訪問理由と自身の研究内容について説明した。モンテプランドーネは上述の通り規模の小さな自治体であるが、聖人ジャコモ・デッラ・マルカの町ということをアピールしていこうと、近年ではイタリアのみならず東欧も含めてジャコモが説教した町々とネットワークを結び、当地でシンポジウムを開催するなどしている。


写真5 ジャコモ・デッラ・マルカ文書館(モンテプランドーネ)


写真6 ジャコモ・デッラ・マルカ文書館、展示室

今月のセミナー参加に関しては、今月10日に担当教官のマリア・ジュゼッピーナ・ムッザレッリ教授主催でおこなわれたセミナー「イタリアとヨーロッパのファッションに対する日本の影響The Influence of Japan on Italian and European Fashion」(於ボローニャ大学歴史学科)に参加した(写真7)。プログラムは、こちらを参照。セミナー翌日からは、報告者の一人シモーナ・セグレ・ライナッハ氏がボローニャ大学と共同で企画した展覧会(80s 90s Facing Beauties. Italian Fashion anda JapaneseFashion at a Grance)がリミニで12月8日まで開催中である。詳細は、こちらを参照。

さらに今月は、知人のイタリア人から依頼され、こちらの高校の授業や教会の集まりで日本文化の紹介をおこなった。筆者の説明の後、高校生たちからは日本の教育制度や若者の生活について、教会では日本の信仰生活について、多くの質問が寄せられた。筆者にとっても日本とイタリアを比較する良い機会となった。今後もこのような依頼があれば応じたい。
 

写真7  セミナー「イタリアとヨーロッパのファッションに対する日本の影響」(ボローニャ大学歴史学科)
2013/11/12 14:00