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頭脳循環を加速する若手研究者戦略的海外派遣プログラム~EU枠内外におけるトランスローカルな都市ネットワークに基づく合同生活圏の再構築

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月度報告書(2013年12月度)木村容子

木村容子


12月に入り、ボローニャの町もクリスマスに向けた装いになってきた。写真1はボローニャ中心部のリッツォーリ通りの様子で、写真奥に見えるのが青色のイルミネーションを施されたアシネッリの塔である。中世には防衛と権力誇示の目的で数多くの有力者が塔を建てたが現在まで残されているものは少なく、アシネッリの塔(97m)とその隣に立つガリセンダの塔(48m)は現在ボローニャの町のランドマークとなっている(写真2)。アシネッリの塔は登ることができ、塔の上からボローニャの街並みを楽しむことができる(写真3)。イタリアのクリスマスの飾りつけといえばプレゼーピオ(キリスト降誕の場を人形で表現した模型)が有名であるが、ツリーも定着しており、町の中心マッジョーレ広場にも立派なクリスマス・ツリーが飾られている(写真4)。


写真1


写真2

今月は、執筆中であった拙稿「中世後期イタリアにおける無名フランチェスコ会説教師の成長Bildungsroman of an Anonymous Franciscan Preacher in the Late Medieval Italy (Biblioteca Comunale di Foligno, Ms. C. 85)」を書き上げ、中世説教の専門誌Medieval Sermon Studies誌に投稿した。考察対象は、先月の報告書で紹介した、15世紀末のイタリアで活動した無名フランチェスコ会説教師である。彼が自身の遍歴説教を四半世紀にわたり記録した日誌は、説教師自身の視点で書かれた一説教師の仕事の記録であると同時に、彼の成長の軌跡でもある。拙稿では、日誌に含まれる1480年代から1500年代の説教を年代順に考察し、経験の浅かった無名説教師が諸都市を旅して場数を踏み、一人前の説教師として成熟していく姿を示した。

すなわち、当初イタリア中部の小都市のみで活動していた日誌説教師は、北イタリアでも経験を積み、徐々にヴェネツィアやナポリ、フィレンツェといった大都市でも説教をおこなうようになった。この間、彼は過去の自分の説教を想起・反復する一方で、新たな説教主題を取り入れたり、既知の主題についても参照する書物を増やすなどして、聞き手を告解に向かわせるという説教の目的に適う「有益」な説教を目指し続けた。自信の無さや準備不足を吐露することもあった日誌の初期から、ときに他の修道会からも求められて説教するまでに成長していく日誌中期、そして典礼を離れてより自由に主題を選ぶ箇所がみられるようになる日誌後期へと、無名説教師の日誌は彼が歩んだ、模索・成長・成熟という動的なプロセスを証しているのである。


写真3


写真4
2014/01/15 15:00