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月度報告書(2014年1月度)中谷良

中谷良


新年はここボローニャで迎えた。ルームメイトたちは新年を家族と過ごすためにすでに実家に戻ってしまっていたので、私は友人宅で新年を祝った。1月1日に日付が変わるとボローニャ中で花火が打ち上げられた。 

1月はアパートの家賃の支払いのために、ボローニャのコムーネに居住地(Residenza)の登録、家賃支払いのための納税者番号(Codice Fiscale)の申請などの事務手続きが続いた。しかしボローニャ到着時に比べると、イタリア語の全般的な能力が多少なりとも向上していたため、滞ることなく処理することができた。

 
写真1. ボローニャでは今年初めての雪が降った。

テローネ(Terrone)という言葉はイタリア各地から学生が集まるボローニャに到着してからよく耳にする言葉である。それは「南イタリア」の人々を指す蔑称であるが、仲間内では単に冗談の一つとして用いられている。私と同居しているアブルッツォ州出身の学生もよくその名称で揶揄われている。ただ彼の住んでいるアブルッツォ州はローマが属するラツィオ州とほぼ同緯度にある州で、また彼の出身コムーネはむしろそのローマよりも北部にある。しかし彼は「南イタリア」の住民なのである。

現在の南イタリアの7州(Regione)は、私の研究する中世シチリア王国の行政区である司法管区(Giustizierato)に起原をもつ。アブルッツォ州も12世紀に司法管区の一つに組み込まれた。13世紀、この政治制度的管区の発展が王から政治的・軍事的権限を付与された司法官(Giustiziere)による管区の一円的支配を可能にしただけでなく、その内部における固有の文化的一体性をももたらしたのである。こうした歴史的経緯が北イタリアと南イタリアとを分断する意識形成の部分的な要因になったと思われる。「南イタリア」という一見地理的に規定されているように思える概念が実は歴史的な構築物であるという事実をこうした日常からも感じることができるのである。


写真2. 休日はボローニャのチェントロが車両通行止めとなり、道路上でパフォーマンスをする人がたくさんいる。

今月は自身の研究対象の史料・文献調査をボローニャ大学の歴史学科の図書館を中心に進めた。日本では刊行史料はおろか研究文献すら海外の各地の図書館から取り寄せなければならなかったため、この機会に自身の研究に必要な研究文献や刊行史料について全て収集するつもりである。学外にある文献に関しては、今月ピオ先生にボローニャ大学図書館のILL利用方法をお聞きしたところ、その担当の方に取り合っていただいた。一度に3冊までなら他大学や他機関の図書館からの取り寄せが可能であるとのことである。

ピオ先生とは2週間に一度の頻度で面会の機会を得ており、その時に私の史料読解にお付き合いいただいている。史料とは先月の報告書でも言及した刊行史料のアンジュー朝文書局発給帳簿であるが、1295年以降の帳簿に関してはまだ刊行されていない。1295年以降の帳簿を読むためには、ナポリの国立文書館に納められている19世紀の研究者の手写本を参考にしてアンジュー家の文書局発給帳簿を再構成しなければならない。1月20日にピオ先生との面会の際にナポリの国立古文書館へ訪問したい旨をお伝えしたところ、同国立古文書館訪問の手配はいつでも可能ということであった。ただし現在刊行されている同発給文書を読み、どの部分の史料が必要なのかをきっちり見極めるようにとのご指摘をいただいた。
2014/03/03 16:00