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頭脳循環を加速する若手研究者戦略的海外派遣プログラム~EU枠内外におけるトランスローカルな都市ネットワークに基づく合同生活圏の再構築

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月度報告書(2014年1月度)木村容子

木村容子


今月は、現在準備している論文に必要な文献を入手するため、パドヴァの聖アントニオ図書館Biblioteca Sant’Antonio Dottoreやファエンツァ市立マンフレディアーナ図書館Biblioteca comunale Manfrediana、ボローニャ市立アルキジンナージオ図書館Biblioteca comunale dell’Archiginnasioなどで史料の閲覧、文献複写をおこなった。筆者のイタリア滞在は今月末で終了する。日本に帰国後、これらの中世説教に関する文献も参考にしながら論文の執筆に取り掛かりたい。

今月半ばには、ボローニャ近郊の町チェゼーナCesenaを訪問した。目的はイタリア最初の公立図書館であるマラテスティアーナ図書館Biblioteca Malatestianaの見学である(内部は撮影禁止のため、図書館HPを参照)。この図書館は、15世紀半ばに領主ノヴェッロ・マラテスタによってフランチェスコ会の修道院内に設立され、貴重な数多くの写本を所蔵、修道会と都市当局の両者で管理に当たった。現在ではユネスコ世界遺産に指定されている。幸運なことに見学者が私一人であったため、普段は立ち入り禁止のロープを越えて部屋の奥まで入ることを許可された。当日は雲一つない晴天で日の光がガラス窓からやさしく差し込み、マラテスタ家の紋章の入った書見台(写本は鎖で繋がれて参照された)、目に優しい色として採用された緑色の壁、15世紀の図書館訪問者が記念に残した落書きなど、特別な空間をゆっくりと楽しむことができた。
 
帰国前に、ボローニャ大学ムッザレッリ教授のもとにご挨拶に伺った。教授には今回のイタリア滞在における成果をご報告し、これまで頂いた助言に対して謝意をお伝えした。

ちょうどムッザレッリ教授との面談日に、歴史学科でパオロ・プローディPaolo Prodi名誉教授の新著『大学―内と外Università dentro e fuori』(Bologna: Il Mulino, 2013)の書評会があり、そちらにも参加した(写真1、2)。
プローディ教授は、たとえば第二次大戦後にアドリアーノ・オリヴェッティ率いるオリヴェッティ社が、教養と創造性を兼ね備えた人材を求めて哲学科を卒業した若者を優先的に採用したというエピソードなども紹介されながら、現代との対比を浮かび上がらせ、1960年代以降のイタリアの大学をめぐる状況の変化、現代の大学で教える側と学ぶ側の双方が抱えるさまざまな問題点を指摘された。


写真1

 
写真2

昨年からのイタリア滞在において、各地の図書館・文書館で史料調査を実施し、その成果の一部を当プログラム主催の合同セミナーや中世後期研究財団Fondazione Centro Studi sulla Civiltà del Tardo Medioevo主催の中世史セミナーで報告し、その後、論文として発表することができた(Yoko Kimura, ‘Predicazione ‘di routine’ di fine Quattrocento. Il diario di un anonimo predicatore francescano (Biblioteca comunale di Foligno, Ms. C. 85), in Archivum Franciscanum Historicum, An. 106 (2013), pp. 585-598)。

また各種講演やセミナーへの参加を通して、ベテラン・若手の研究者たちと交流する機会を得た。これからも、今回の海外派遣で得た成果を活かして研究をさらに進めていきたい。このような貴重な研究活動の機会を与えてくださった関係者の皆様に心よりお礼申し上げます。
2014/03/03 16:00