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頭脳循環を加速する若手研究者戦略的海外派遣プログラム~EU枠内外におけるトランスローカルな都市ネットワークに基づく合同生活圏の再構築

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月度報告書(2014年2月度)中條健志

中條健志

月の前半は、2月16日におこなわれた「反植民地サロン」(Salon anticolonial)(写真1)での口頭発表の準備をすすめた。今年で9回目をむかえるこの催しは、2005年2月に採択された「フランス人引揚者に対する国民的感謝および国民的負担」という法律の条文(第4条)のなかに、北アフリカにおけるフランスの植民地支配を肯定する文言が書き込まれたことを受け、それにたいする異議申し立てとして始まったものである。

運営主体は「脱植民地主義」(Sortir du colonialisme)という市民団体で、そこに様ざまな団体、研究者、ジャーナリストらが関わっている。筆者は、ROVプログラム(インターナショナルスクール・若手研究者等海外派遣プログラム)の枠内で2012年2~4月にパリにおいて在外研究をおこなった際、同団体のシンポジウムに参加し、主催者らへのインタビューを実施した。今回の発表は、そこでの交流関係が継続した結果であり、昨年9月の滞在時に同団体を訪問した際、日本における植民地主義をテーマとした講演の依頼を受けた。


写真1

発表題目はSituations post-coloniales après Fukushima - Banalisation du racisme au Japon -(「フクシマ以後のポストコロニアル的状況――日本におけるレイシズムの日常化――」)とした。テーマ自体は筆者自身の専門からやや離れてはいるが、これまでの自身の研究で得られた知見やそこでの方法論を参照しながら発表を準備した。また、この催しが一般向けであること、また日本と植民地主義という、フランスにおける同様の問題と比べ比較的知られていない主題を扱うことから、できるかぎり問題を概観できるような内容を目指した――主催者からもそういった趣旨の提案があった――。発表内容を大まかにまとめると次のとおりである。まず、日本の植民地主義の始まりを帝国憲法が公布された1889年とし、第二次大戦までの植民地拡大政策をたどった。

次に、朝鮮半島を中心とした旧植民地出身者およびその子孫にたいする法的措置・政策や、彼(女)らへのレイシズムの事例を提示した。最後に、「3.11」以後のあらたなレイシズムの展開としてヘイトスピーチという現象を挙げ、その要因の一部として、戦後から現在にいたるまでの(日本国籍保持者以外にたいする対応という意味での)「外国人」政策や、植民地の過去にたいする人びとの認識という問題を挙げた。

なお、発表は政治学者のフランソワーズ・ヴェルジェス氏(ロンドン大学)と共同でおこなわれ、同氏には、筆者の発表にたいして植民地主義およびポストコロニアル問題にかんする理論的な考察を加えていただいた。筆者の発表は事実関係の提示が中心であったが、それが抱える構造的な問題を分析するヴェルジェス氏のコメントによって、「日本と植民地主義」というテーマがフランスにおける植民地主義とも比較可能な問題であることが明らかにされた(写真2、3、4)。なお、発表準備――とりわけ発表原稿の添削――にあたっては、交流関係にある研究者らの支援を受けた。


写真2


写真3


写真4

月の後半は、これまでに研究会、セミナー、政治集会において収集した資料の整理・読解にあてた。それらは、①19世紀末以降の「移民問題」、および②第二次大戦以降の「イスラモフォビア」の語られ方の変遷にかんするものである。とりわけ、研究者らの言説を中心として、その時どきの社会的文脈によって「移民」あるいは「イスラム」がどのように問題化されてきたのかを検討した。

参加したセミナーのなかで興味深かったのは、2月4日にパリ北東郊のボビニー市でおこなわれたミシェル・ココレフ氏(パリ第8大教授)のものである(写真5)。そこでは、サンパウロ大教授のヴェラ・テレス氏をゲストにむかえ、「郊外」(banlieue)をテーマに、フランスとブラジルにおける社会的貧窮化(paupérisation sociale)が議論された。経済的コンテクスト(=戦後の経済成長期直後の郊外の急激な不安定化)は両都市とも似ているものの、社会問題化の形態はかなり異なり、前者のほうがよりローカルな問題として提起される一方、後者ではより国全体が抱える問題とみなされる。そして、異議申し立ての当事者からの要求は、フランスでは社会政策や福祉の問題として、ブラジルでは生存にかかわる問題として提起されるという。フランスの「郊外」が問題化されるプロセスは筆者の研究テーマの一つであるが、こうした都市間の比較論的な分析はこれまでに試みていない。そうした意味で、ココレフ氏のセミナーは大変有益なものであった。

また、受入教員であるセルジュ・ポーガム教授とは継続的にコンタクトをとりあい、筆者の研究や、訳出中の著書のなかでの不明な点にかんして助言をいただいた。また、来年度に予定されている国際研究集会の内容ついても打ち合わせをおこなった。写真6は、ポーガム教授の研究室がある14区のモーリス・アルブヴァクス・センター。同教授は、同センター内におかれた「社会的不平等研究班」(Équipe de Recherche sur les Inégalités Sociales)の代表を務めている。


写真5


写真6
2014/04/21 17:00