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頭脳循環を加速する若手研究者戦略的海外派遣プログラム~EU枠内外におけるトランスローカルな都市ネットワークに基づく合同生活圏の再構築

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月度報告書(2014年4月度)中谷良

中谷良


4月度は5月下旬のナポリでの史料調査の準備を中心に行った。以前の報告書で述べたように、1295年以降のアンジュー家文書局の帳簿 (registri) の手写本を読みに行くためである。ただ、その手写本以外にもすでに19世紀に刊行化された帳簿の史料集がいくつか存在することを知り、貴重な研究文献を多く収めているアルキジンナージオ図書館に通いそれらの文献も調査した。ただ4月20日が復活祭(Pasqua)で5月1日がメーデーであったため、4月後半は図書館自体が連日閉館になることが多く、研究活動が滞った。そのため5月以降も継続してアルキジンナージオ図書館には通うつもりである。

帳簿の研究自体、王の地域社会への関わり方を明らかにするための重要な手がかりである。帳簿に記された書簡は地方役人に宛てた行政文書であり、紛争仲裁の書簡から役人の賃金未払いに関する書簡まで幅広い内容を含んでいるのである。またその文書数にも注目すべき点がある。全体で378ある帳簿の文書総数はアンジュー家支配の約170年間で50万を超え、私が研究しているカルロ2世の帳簿数は全体の約3割以上を占めている。カルロ2世統治期は文書局からの発給文書数が増大した時期であり、こうした文書数の増加が王権の地域社会への姿勢の変化を反映していると考えるのは自然なことであろう。今後はルチェーラが位置するカピタナータの地方役人に宛てた書簡を中心に、その書簡の内容だけでなく、発給場所や発給者にも今以上に注視して調査していこうと考えている。

ナポリの古文書館訪問に関しては、ピオ先生に事情を話し次回の面談までに古文書館訪問のための書簡と参照すべき手写本リストを用意していただけることになった。また、ピオ先生とはルチェーラの司教座聖堂に収められている羊皮紙文書(現在はデジタル化されウェブ上で閲覧可能)も今後一緒に読んでいくことになっている。この羊皮紙文書は1302年以降に発行されたものであり、ルチェーラのムスリム共同体崩壊後の処置に関する王の書簡を多く含んでいる。ただし部分的に保存状態がよくないものもあり、直接司教座聖堂へ閲覧しに行く可能性も現在視野に入れている。

4月初旬には原田亜希子氏が、下旬には有田豊氏が同じ頭脳循環派遣者としてボローニャに到着された。ボローニャ大学の中世史学科の建物で一度顔合わせを行い、今回の頭脳循環事業における各自の研究課題や問題関心の共有を図った。各自の予定があえば、週に一度ボローニャでの研究活動報告会を実施することにしている。


報告会の様子
2014/05/23 13:00