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頭脳循環を加速する若手研究者戦略的海外派遣プログラム~EU枠内外におけるトランスローカルな都市ネットワークに基づく合同生活圏の再構築

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月度報告書(2014年9月度)中條健志

中條健志


国立移民歴史館では7月に常設展の一部がリニューアルされた。8月はヴァカンス期間で休館していたため、今月に入ってから同所を複数回にわたって訪問した。以前との変更点は、音声ガイド機器とタッチパネルで操作していた展示物の更新、および一部の展示品(フランスに移住する際の所持品)の入れ替えである。これまでは、展示場所ごとに赤外線通信を用いて音声ガイドを起動させるものであったが、時おり通信できないケースがみられた。新たなシステムは、既に音声が収録された機器を用いて、展示品に記載された番号を入力しながらガイドを聞くものとなり、そうした障害が解消された。タッチパネルを用いて解説文や図表・写真を表示させる展示物についても、タッチした際の反応が悪いといった問題があったが、それが廃止され、操作なしに常に情報が表示されている状態となった。

2007年10月の開館以来、移住者個人から収集した展示品――身分証明書、フランス入国にかかる申請書類、移住の際に使用したスーツケースとその中身など――に大きな変更はなかったが、今回のリニューアルでは、開館後から現在にいたるまでのあいだに収集されたものがあらたに追加あるいは入替されていた。展示スペースが小さく、展示品も豊富とは言い難い同館であるが、時期、出身、移住の理由といったテーマごとの資料収集を現在も継続しており、今後の所蔵品・展示品の充実が期待される。

また、21日には「欧州文化遺産の日」のイヴェントの一環でおこなわれた、一般来場者向けのツアーガイドに参加した。およそ1時間半にわたるこのツアーでは、展示物の解説だけでなく、それらが収集された経緯や展示方法の意味といった情報を得ることができた。そこでは、経済的あるいは政治的理由による移民たちにとっての庇護地としてのフランス、彼(女)らの社会統合を積極的に展開してきたフランスといった形で、移民歴史館の意義が語られていた。「受け入れ国」としてのフランスの立場をポジティヴに提示するこうした立場は、これまでにおこなった歴史館設立にかんする報告書の分析から得られた結果と同様のものだといえる(写真1~4)。


写真1


写真2


写真3


写真4

14日には、派遣先機関に所属する研究者からの紹介で、ルクセンブルク(デュドゥランジュ市)にある移住者資料センター(Centre de Documentation sur les Migrations humaines)を訪問し、同館のスタッフおよび研究者との交流をおこなった(写真5、6)。「小イタリア」とよばれる旧イタリア人移民居住地区にある同センターは、ルクセンブルクにおける移民研究の拠点である。お互いの研究にかんする意見交換だけでなく、担当者による「小イタリア」のフィールドワークにも参加することができ(写真7~10)、大変有意義な訪問となったが、何より収穫だったのは、国立機関であるパリの歴史館と同センターとの方向性の違いを確認できたことである。単純化した言い方ではあるが、政治家が創設・運営に積極的にかかわる移民歴史館のほうが、若干の公的な資金援助を受けているものの、ボランティアによって運営される同センターに比べより「政治的」な機関である。これは、今後研究すべき点であるといえる。


写真5


写真6


写真7


写真8


写真9


写真10

受入教員であるポーガム教授とは定期的にコンタクトをとり、研究にかんするアドヴァイスを受けた。また、大阪市立大学との学術交流協定にかんして、また2015年3月25日~26日に現地で開催予定の国際シンポジウムにかんして打ち合わせをした。後者については、これまでに議論を重ねてきたシンポジウムのテーマ(「Disqualification socio-spatiale dans les villes françaises et japonaises」(フランスおよび日本の都市における社会空間的降格)」)の確定、発表者および会場の検討、当日のスケジュール調整などをおこなった。

また、今月は本プログラムにおける研究活動の成果の一部が、日本フランス語教育学会の学会誌『Revue japonaise de didactique du français (Société Japonaise de Didactique du Français)』(第9-号2巻)に論文として掲載された。タイトルは「L'« immigration » dans l'histoire de la France - Analyse critique du discours sur la fondation de la Cité nationale de l'histoire de l'immigration(フランスの歴史における「移民」――国立移民歴史館創設をめぐる批判的談話分析)」で、昨年度7~9月に収集した資料の分析結果である。


2014/10/20 18:00