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頭脳循環を加速する若手研究者戦略的海外派遣プログラム~EU枠内外におけるトランスローカルな都市ネットワークに基づく合同生活圏の再構築

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月度報告書(2014年10月度)有田豊

有田豊


今月は1ヵ月かけて研究報告の準備を進め、月末にはドイツに渡航、国際共同セミナーにて研究報告を実施した。

研究報告の場となったドイツへは、セミナー開催の前日である10月27日に入国した。早朝6時50分、同じ頭脳循環プロジェクトメンバーである原田亜希子氏と共にボローニャ・グリエルモ・マルコーニ空港から飛行機に乗り、フランクフルト、ケルンを経由、目的地であるビーレフェルトには13時頃に到着した。ビーレフェルト中央駅 Bielefeld Hauptbahnhof からは近距離鉄道シュタットバーン Stadtbahn に乗り換え、ビーレフェルト大学のある Universität 駅へと向かう。駅では、同じくプロジェクトメンバーの1人で、現在同大学で研究員をしている犬童芙紗氏と合流、大学の中をいろいろ案内していただいた。大学に関する具体的な説明は先人の報告に譲るとして、報告者個人の感想を述べるならショッピングモールのごとく様々なサービス施設が用意されたメインビルディングの1階部分と、そこを利用する各学部の学生が学際的に相互交流できるシステムが構築されている点には、ドイツの大学の機能性を見ることができたように思う。同日夕方からは3人でビーレフェルト市内中心部を巡見、フランスやイタリアとは異なる建築様式の数々に、カメラのシャッターを切る手が止まらなかった。中でも、13世紀に建造されたカトリックのロマネスク式教会の建物をルター派が再利用している点は、キリスト教を研究する者として非常に興味深く感じられた。

【ビーレフェルト市内にある聖マリア教会 Neustädter Marienkirche(1293年建造):
見た目は完全にカトリック教会であるが、現在はルター派によって利用されている】
 

翌10月28日には、頭脳循環プロジェクトにおける大阪市立大学とビーレフェルト大学共催による国際共同セミナー「Europe in Times of Glocalisation / Europa in Zeiten der Glokalisierung」が開催された。当日は朝9時にホテルのロビーにて、日本からいらっしゃった先生方と合流。そのまま全員でビーレフェルト大学まで移動し、当該大学における本プロジェクトの受入教員 Angelika Epple 教授の研究室へご挨拶に伺った。教授には大学構内を案内していただき、メンザにて一緒に昼食をとった後、セミナー会場へと移動した。セミナーは13時に開会され、福島祥行教授の司会の下、5名の研究者がそれぞれ日頃の研究成果を英語で報告した(詳細は、こちら)。

【Prof. Dr. Franz-Josef Arlinghaus (Bielefeld University)
 “How to talk with citizens? Writing and forms of communication between councilmen and citizens in late medieval Cologne”】
 

【Yutaka Arita (Osaka City University)
 "Collective Consciousness on the Waldenses after 1848"】
 

【Dr. Fusa Indo (Osaka City University)
 "Hamburger Singakademie, Charity Concerts and Society in the Nineteenth- and Twentieth-Centuries"】
 

【Prof. Dr. Masafumi Kitamura (Osaka City University)
 "The Forest Settlement by Bruno Taut in Past and Present"】
 

【Dr. David Gilgen (Bielefeld University)
 "The location of Innovation and Commons. Localities and Regional Varieties of Capitalism in post-ricardian Globalisation."】
 

上記5名の報告の後、全体討論が行われた。Arlinghaus 教授と Gilgen 氏の間で経済史に関する議論が白熱し、さらに Arlinghaus 教授からは北村教授の発表にも質問が出ていて、英語、ドイツ語、日本語が飛び交う活発な討論が展開された。報告者の発表に関しても、様々な質問や意見をいただくことができ、今後の課題も見えてきたので、収穫の多いセミナーだった。セミナー終了後は、全員でビーレフェルト市内中心部にあるレストランに移動、懇親会の席を持つことに。報告者は Epple 教授と Gilgen 氏の近くの席になったので、英語、ドイツ語、イタリア語を交えながら談笑し、非常に楽しい一時を過ごすことができた。同時に Epple 教授からは「今後はどのような方向性で研究を進めていくのか」、「その際にはどういった種類の史料を使うのか」といった質問を個人的に受け、自分の研究を改めて見直す良いきっかけにもなったように思う。

セミナーの翌日は、ビーレフェルトからハンブルクへの移動日に充てられていた。ハンブルク Hamburg は、北海の南約 100km の地点に位置するドイツ第2の経済規模を持つ都市であり、大阪市とは姉妹都市関係にある。大阪市立大学にも毎年ハンブルク大学からの留学生が学びに来ており、さらに昨年度のNHK『テレビでドイツ語』の舞台がハンブルクだったことから、名前だけは幾度となく耳にしてきたのだが、実際に訪問するのは今回が初めてだった。朝9時半にビーレフェルト発の電車に乗り、ハノーファーで乗り換えて、多少電車が遅れたものの、12時過ぎにはハンブルクに到着した。当日は降水確率90%の数字が示す通りの悪天候に見舞われたのだが、せっかくの機会なので、犬童氏、原田氏と共に市内巡見へと繰り出すことに。ハンブルクは、街の中心部にエルベ川をせきとめて作ったアルスター湖 Alster と呼ばれる大きな湖があり、イタリアのヴェネツィアのように市内を運河が走っていて「水の都」という印象を受けた。19世紀に建造されたネオ・ルネサンス様式の市役所、ロマネスク式尖塔の美しい教会群など、景観も申し分ない。晴れの日に市内を散策すれば、この景色もより一層綺麗なものに見えることだろう。

【ハンブルク市庁舎と運河】
 

【アルスター湖とハンブルク市街地】
 

10月30日は、 steg 社なる不動産業者の方々に引率される形で、ハンブルクの都市計画について学ぶエクスカーションに参加した。steg 社は、古くなった家屋や戦時中の施設を壊さずに「文化的建造物」として保護すべく、多少お金をかけてでも可能な限り再利用する方法を模索しながら、現代の都市に合わせた形のリノベーション建築を推進している。この点でドイツと日本は、文化や歴史に対する価値観が異なるように感じる。建築に関して例を挙げると、報告者が市大に入学した2002年当時、杉本キャンパスの本館地区には、先の大戦における米軍占領時に建造された木造のチャペルが残っていた(もちろん本来の用途では使われておらず、グリークラブの部室として再利用されていた)。しかし、報告者が2005-2007年のフランス留学後に市大へ戻って来てみると、チャペルの面影は跡形もなく、代わりにガラス張りの近代的な施設が新築されていて、少し残念に思った記憶がある。もし文化的建造物を保存していく意識が日本にも広く根付いていれば、チャペルを壊すことなく、市大の歴史を語る建造物の一つとして有効活用することもできたかもしれない。

【現在改装作業が進んでいるGänge-Viertel:
当該物件の住民(芸術家)と協議しながら、建物を破壊することなく、現代の都市条例に合わせた形のリフォームを行っている】


【steg 社の方の説明を聞く先生】
 

ドイツで過ごした5日間は、終始ドイツ料理に舌鼓をうつことができた。本場で食するヴルストWurst、ビールBierとも大変美味であったが、先人の報告書で「ピザの具材はイタリアのほうが美味しいが、小麦の生地はドイツのほうが美味しい」と聞いていたため、ドイツに来た以上、それは是非とも検証しなければならないと考えていた。しかし、その計画を大黒教授に伝えてみたところ「ピザは日本のものが美味しいと思う」というご意見をいただき、結局ドイツでは最後までピザを口にすることはなかった。

さて、末尾になるが、今月10日、報告者の研究に関するインタビュー記事が、イタリアの新聞ラ・リフォルマ La Riforma に掲載された。この新聞は当報告書でも何度か言及しているが、ヴァルド派が1848年7月13日から発刊しているものであり、現在ではイタリアのプロテスタント間で情報を共有する重要なツールの一つとなっている。9月のヴァルド派研究発表会の場で知り合った本新聞の記者サラ・トゥルン Sara Tourn 氏の依頼でインタビューを受け、自分の研究を記事にしていただくことができたのである。当記事はピネローロのヴァルド派教会の教会新聞に引用されたほか、記事に目を通して下さったヴァルド派関係者から報告者の元に個人的にメールが送られてくるなど、多少の反響があったことを追記しておきたい。

【La Riforma – l’Eco delle Valli Valdesi, numero 37, 10 ottobre 2014, p.12】
 

現代のヴァルド派の集団意識に関する研究報告が終わり、これまで数年かけて取り組んできた「ヴァルド派の集団意識」に関する通時的な検証が、一連の研究として完成した。残りのイタリア滞在中は、この研究を論文の形で発表できるよう努力していきたいと思う。
2014/11/19 14:00