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頭脳循環を加速する若手研究者戦略的海外派遣プログラム~EU枠内外におけるトランスローカルな都市ネットワークに基づく合同生活圏の再構築

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月度報告書(2015年3月度)中條健志

中條健志


3月4日に、神戸大学ブリュッセルオフィスでおこなわれた「第59回ベルギー研究会」において、運営担当および発表者として参加した(写真1)。そこでは、『ベルギーにおける「移民問題」の歴史』と題した研究発表をおこなった。発表の目的は、19世紀前半から今日までのベルギーの移民史を概観しながら、移民政策および移民をめぐる政治談話がどのように変化してきたのかを分析することで、ベルギーにおける「移民問題」の変遷を明らかにするものである。そこではまず、社会的背景および移民の出身地域をもとに時代区分を設定し、各時代の移民政策の特徴を指摘し、次に社会問題としての移民にかんする政治家の発言を取り上げ、それらが移民政策とどのようにリンクしているのかを検討し、最後にベルギーにおいて「移民」が語られるなかで、これまでに何が「問題」とみなされてきたのかを、近隣諸国(フランス、ルクセンブルク)との比較から考察した(写真2)。


写真1


写真2

また本月度は、3月26日-27日にかけて開催された、社会科学高等研究院(EHESS)と大阪市立大学との国際共同シンポジウム「日仏の都市における社会・空間的降格」(写真3、4)の準備が主な活動となった。発表者との打ち合わせ、会場準備、および自身の報告準備を、文学研究科の川野英二教授と受入教員であるポーガム教授らの協力を得ながらすすめた。当日の発表者および報告タイトルは以下の通りである。

3月26日
  • アンドレ・ゲラン(パリ第7大学)『空間的降格:現代フランスの都市極貧にかんする歴史学的アプローチ』
  • ジェラール・ノワリエル(EHESS)『労働移民の空間(1880-1930)』
  • セルジュ・ポーガム(EHESS)『21世紀における社会的に降格した地区:パリ郊外を事例に』

3月27日
  • 佐賀朝(大阪市立大学)『近代大阪の都市周縁―近世から近代へ―』
  • 島田克彦(桃山学院大学)『近代大阪の下層労働者世界―1930年代の港湾労働者の事例―』
  • ミシェル・ココレフ(パリ第8大学)『フランス郊外の住宅団地におけるセグリゲーションと差別』
  • 川野英二(大阪市立大学)『大阪における都市降格と空間的セグリゲーションの効果』
  • 伊地知紀子(大阪市立大学)『在日朝鮮人をめぐる植民地主義とレイシズム』
  • 中條健志(大阪市立大学)『「統合」の問題性:ルクセンブルクにおける外国人受入政策をめぐる談話分析』。


写真3


写真4

おこなった研究発表の目的は、ルクセンブルクの外国人受け入れ政策における「統合」という概念を分析し、ルクセンブルク社会においてその概念がもつ社会的、政治的、歴史的意味を明らかにすることである。分析は批判的談話分析(Critical Discourse Analysis)の手法を用いておこない、三つの法令を談話資料として取り上げ、どのようなコンテクストのもとで統合が語られているのか、そして統合にかんする談話がどのような社会的影響をもちうるのかを検討した。分析の結果、「統合」はコンテクストに応じて様ざまな意味を付与される流動的な概念であること、一方で、統合の対象とされる、すなわち統合していないとみなされた個人や集団が実体的な存在として、またその社会的異質性が強調される形で語られることで、ルクセンブルクにおける外国人のスティグマ化がもたらされうることを結論において指摘した。
シンポジウム翌日には、日本側発表者とともに国立移民歴史館およびパリ市内の「移民」関連地区におけるフィールドワークを実施した(写真5、写真6)。
3月31日に帰国し、本プログラムの日程を終えた。


写真5


写真6
2015/04/08 12:00