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月度報告書(2014年12月度)原田亜希子

原田亜希子


先月の有田氏の報告書の中でも触れられていたように、11月後半から徐々にボローニャの街の至る所にクリスマスツリーやイルミネーションが設置され始め、12月に入ると街はすっかりNatale(クリスマス)の雰囲気に包まれた。ここイタリアでは毎年どの街も、街全体がルミナリエ(イルミネーション)で色づく。昨今の日本のイルミネーションに比べると単色のシンプルなものが多いが、その分一層古い街並みを際立たせ、非常に幻想的である。今年のボローニャは、毎年恒例となっている2本の塔の前面を滝のように照らし出すイルミネーションは、不況のためか中止となったが、ボローニャならではのポルティコ(アーケード)を生かした様々なイルミネーションが至る所に見られた。

また街の中心のPiazza Maggioreには特大クリスマスツリーが設置された。なお、クリスマスツリーは毎年この場所に設置されているが、今年はこのツリーをめぐってちょっとした騒動が起きた。11月最後の週末に市長を招いての点灯式が行われたのだが、点灯してみるとボローニャの斜塔ガリセンダの塔よろしくツリーが大きく傾いていることが明らかになったのだ。これが地元紙を交えて論争に発展した。というのも今年は初めてアルプスからではなく、ボローニャ近郊アペニン山脈の木、すなわちボローニャ地元の木を使ってのツリーと、設置前から大々的に宣伝する力の入れようだっただけに、これを他の木と変えるべきかどうかで意見が分かれたからだ。最終的にこの騒動は市長が会見で、「自然は人間が力を加えることができない領域であり、ありのままの姿が一番であるために今年のボローニャのツリーは傾いたままにする」と発表したことで無事収束を向かえることとなった。


去年までの斜塔のイルミネーション


今年のボローニャのイルミネーション


ポルティコを照らすイルミネーション(1)

 
ポルティコを照らすイルミネーション(2)


傾いたボローニャのクリスマスツリー


ヴィチェンツァのイルミネーション


ローマのイルミネーション


ローマのイルミネーション、毎年恒例のVia del Corsoのイルミネーションは来年ミラノで開催される万博をイメージして万国旗のライトアップであった。

11月には毎年恒例のチョコレートフェスタCioccoShowが中央広場で行われ、イタリア各地の有名店のチョコレートを求める人で連日大盛況で、広場には早速買ったばかりのチョコをつまんだり、暖かいホットチョコレートを飲んで体を温めながらスタンドを回る人であふれていたが、12月になると今度は街の至る所でクリスマスマーケットが開かれ、ホットワインを片手にクリスマスプレゼントを選ぶ人でにぎわっていた。

またボローニャの伝統的なクリスマスマーケットといえば、200年以上の歴史を誇るLa fiera di Santa Luciaである。Santa Maria dei servi教会のポルティコの下で行われるこの市場では、特にプレゼピオを売る屋台が多いことで有名である。先月の有田氏の報告書にもあったように、キリストの降誕の場面を再現した模型であるプレゼピオは、この時期の多くのイタリア人の家庭でクリスマスツリーと同様に飾られるものである。市場ではプレゼピオの多くが馬小屋から、幼子イエス、聖母マリアなどの人物まで、全てがばら売りであり、それぞれが自分でプレゼピオをカスタマイズできるようになっている。

そもそもプレゼピオは1223年の聖フランチェスコによるものが始まりといわれているが、当初は馬小屋の中の幼子イエスと牛・ロバだけだったという。それが徐々に聖母マリアや聖ジュゼッペなどの人物が加わり、18世紀には特にナポリ、ジェノヴァ、ボローニャの3都市で宗教的施設のみならず貴族が競って一流の芸術家にプレゼピオを作らせ大発展を遂げた。屋台ではポンプつきの水車や様々な職業の人物なども売られていて、多くの人が毎年少しずつ自宅のプレゼピオに新しい要素を足しながら楽しんでいるという。


ChiccoShowの様子


遅くまで大勢の人で賑わうPiazza MaggioreのChoccoShow


Piazza Minghettiのクリスマスマーケットの様子


Fiera di Santa Lucia


プレゼピオを売る屋台の様子

今月も先月に引き続き、ローマでは市立カンピドーリオ文書館での史料調査、ボローニャでは帰国後の3月の発表の構成の準備に励んだ。

今月は特に近世教会国家におけるボローニャと教皇庁との関係を研究されているAndrea Gardi教授に個人的に指導していただいた。Gardi氏は現在Udine大学で教鞭を執られており、普段は学会や研究会でしかお会いできず、なかなかゆっくりお話しすることができなかったが、先月のボローニャ国立文書館での学会でお会いした際、発表の構成に向けて指導していただきたい旨お願いすると、ご親切にもUdineからボローニャにいらっしゃる週末に個人的に時間をとってくださった。現在私が研究しているテーマに最も近い分野の研究者であるGardi氏と大学近くのカフェで3時間以上にわたってお話しすることができ、3月の発表の構成だけでなく、これまで研究してきたローマとの比較研究の可能性や今後の博論の構成に関しても非常に貴重なアドバイスをたくさんいただくことができた。

なお今月の一番のイベントはなんといってもクリスマスである。4月の報告書にも書いたとおり、ここイタリアでは「Natale con i tuoi, Pasqua con chi vuoi(クリスマスは家族と、復活祭は好きな人と)」といわれており、クリスマスは多くの人が実家に帰って親戚と過ごす日である。まさに日本のお正月のような雰囲気である。実際日本の年末の帰省ラッシュのように、23日のボローニャ駅は帰省する人であふれかえっており、またスーパーもカートを動かすのも困難なほどの人で、売り切れの商品が目立っていた。

イタリア式クリスマスの過ごし方とは、ひたすら食べることに尽きる。多くの人が24日の夜から家族と一緒に食事を楽しむ。伝統的にイヴの日はDigiuno(断食)の習慣からお肉は食べず、お魚を食べることになっている。また0時にはミサが行われ、普段ミサに行かない人もクリスマスにはミサに行くために多くの人が集まる。私は夜中のミサには残念ながら行くことができなかったのだが、25日の朝のミサに参加したところ、こちらも椅子が足りなくなるほどの多くの人が参加していた。また普段だとミサが終わると教会の前で多くの人が話している光景を見かけるが、この日ばかりは親戚の家でのお食事が待っているために、みな足早にそれぞれの家に向かう姿が印象的だった。

ボローニャの多くの家庭では、クリスマスには伝統的なボローニャ料理である、ラザニア、トルテッリーニ(ミンチやハムなどの詰め物をしたパスタ)、ボロネーゼソース(ミートソース)のタリアテッレなどが食卓に並ぶ。どれもパスタは小麦粉と卵をこねるところから準備するために非常に手間がかかるが、家庭で作った生パスタは格別である。前菜から始まり、第一皿(パスタ)、第二皿(お肉料理)が数種類ずつ、最後にデザートと食事は夕方まで続く。

また忘れてはいけないのが、クリスマスのプレゼント交換である。今年は不景気の影響でプレゼントを買う人が少なくなったとニュースで言っているのを耳にしたが、それでも25日の日には大きな袋にプレゼントをつめて親戚の家に向かう人を大勢見かけたので、小さなものでも家族間でのプレゼント交換は欠かせないようである。

また食事の合間にはTombolaと呼ばれるビンゴのようなゲームをして楽しむ。カトリックの国であるイタリアにとってクリスマスは宗教的に重要な行事であることはもちろんのこと、家族や親戚と時間を共にすることによって毎年家族の絆を確認し、互いの親交を深める機会としても大切なものであり、まさにキリスト教が文化の中に根付いていることを肌で感じることができた。

 
ボローニャ名物トルテッリーニ

 
クリスマスに家族で楽しむゲームTombola

また先に書いたとおり、ボローニャは17世紀にプレゼピオが発展した都市のひとつであり、25日以降(それまでに出ているところもたいてい25日まではキリストは飾られない)は毎年多くの教会がプレゼピオを飾るために、有田氏とともに週末に市内のプレゼピオ巡りを行った。ボローニャのプレゼピオは伝統的にテラコッタで作られることが特徴であるが、伝統的なプレゼピオから現代彫刻家の作品であるプレゼピオまで様々なプレゼピオがあり、いろいろな教会を見比べながら回るのは非常に面白かった。またSan Francesco教会で行われていたプレゼピオ市では世界各地の衣装を着たプレゼピオを見ることができたり、大学近くのSan Giovanni in Monte教会ではプレゼピオのコンクールが行われていたりと、現在もプレゼピオの文化が更新され続けていることは非常に興味深かった。


18世紀の木造プレゼピオ


市庁舎中庭に飾られた現代彫刻家によるプレゼピオ


Santo Stefano教会のプレゼピオ(木造丸彫りのもので世界最古といわれている)


Santo Stefano教会の今年のプレゼピオ
(ボローニャの街があらわされ、前面にはトルテッリーニを売る女性や奥にはSan Luca教会も見られる。)


San Bartolomeo教会のテラコッタのプレゼピオ


San Francesco教会のプレゼピオ市で売られていた日本風のプレゼピオ


San Giovanni in Monte教会で行われていたプレゼピオコンクール出品作、ボローニャの街並みが忠実に再現されている。


同じくコンクール出品作、現代風にアレンジされたプレゼピオ
2015/01/13 15:00